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日本作物学会の皆様へ

会長 大門弘幸
(龍谷大学農学部)

 この度,2022年4月より2年間,日本作物学会の会長を務めさせて頂くことになりました.会長就任にあたり会員の皆様へご挨拶を申しあげます.
 昨年9月に,多くの会員の方々にご参加頂きました第10回アジア作物学会議(ACSAC10)が,つい先日のことのように思い起こされます.ACSAの節目となる第10回目の会議を日本作物学会が主催し,山内運営委員長のもと名古屋大学を中心とする運営委員会ならびに海外交流推進委員会の皆様のたいへんなご尽力により,アジア地域の作物学ならびに関連領域の研究者や学生の皆さんと情報交換がなされました.会議初日のキーノートレクチャーでご講演頂いたICRISATのJacqueline Hughes博士ならびにJIRCASの小山修博士のご講演では,私たちがアジアの作物学研究者の一員である責任を再認識する一方で,この地域をはじめとする世界の食糧問題や環境問題の課題解決に貢献できる立場である喜びのようなものを感じ,大いに勇気づけられました.このご講演は多くの会員の皆様の心にも響いたものと拝察しています.次回のACSAC11は台湾で開催する予定になっています.ACSA会長には山内会員,事務局長には坂上会員が選出されました.日本作物学会の会員の皆様には,ACSAの活動を引き続き牽引頂きたくよろしくお願い申しあげます.
 全球的な気候変動,新型コロナウイルスによる物流の停滞,ヨーロッパ情勢の急激な変化などによる食糧需給バランスの劣化など,私たち作物学分野の研究者,技術者,そして次代を担う若い学生達が取り組むべき多くの課題が,今,山積しています.作物学会が取り組むべき課題については,食料の安定供給や農耕地の保全等のキーワードでしばしば表現されますが,その基盤となる作物の遺伝的特性の評価や環境応答の理解などの基盤知見の集積が重要であることは言うまでもありません.また,気候変動下での低投入型の作物生産の具体的な方向性を提示し,一方で地域に根ざした品種の育成や栽培技術の改良も私たちが取り組むべき課題だと思います.本学会の会則第2条に記された「作物に関する学術の発展を図る同学の士」の集まりによる力を益々発揮していくために,学会員の皆様の活動を支援していければと考えています.2年間,どうぞよろしくお願いいたします.以下に,いくつかの視点から学会運営の現況などを述べさせて頂きます.
 新型コロナウイルス感染症の拡大によって,2020年から学会活動,個々人の研究活動や普及活動,そして教育機関では実験,実習をはじめ人材育成や地域貢献に関する活動が制限されてきました.一方で各学協会では,講演会やシンポジウムをオンラインで開催する工夫をすることで,国内外の研究者との情報交換を日常的に行うことに慣れてきたようにも思います.本学会においても,上述のACSAC10の成功をはじめ,多くの会員のご尽力により,オンライン講演会を4回に亘り実施してきました.山岸前会長の御退任の言にもありましたが,オンライン開催と対面開催にはそれぞれのメリットとデメリットがあるかと思います.本学会ではこの2年間の経験をもとに,学会員皆様の御意見をお聞きしながら,再度,講演会のあり方について検討を始めたいと考えています.御意見を是非お寄せ下さい.
 コロナ禍により,様々な面で研究が遅滞せざるをえなかったと,幹事会や評議員会でお聞きしました.講演会での発表課題数や和文誌への投稿数がこれまでに比べて昨年度は明らかに減少しています.これは一過的なことであり,今しばらく様子を見る必要があるとは思います.英文誌PPSにおきましても,投稿数はやや減少気味ですが,海外の研究機関においても同様の現象があるものと見ております.今後,回復してくることを期待しています.
 学会財政健全化の課題につきましては,2020年度から会費値上げを皆様にお願いし,お陰様で2021年度の単年度収支はバランスがとれ,2022年度予算も無理なく立案することができました.一方で,2017年から5年間の採択がなされていた「国際情報発信」科学研究費はこの3月で満了しました.昨年11月には,根本PPS編集委員長のもと,新たに魅力的な申請をして頂きました.このご挨拶が皆様のお手元に届く頃には結果が出ていることになります.科研費への依存度が未だ小さくない財政状況ではありますが,効率的な運営体制を構築することで,財政健全化に対応していきたいと考えています.
 学会の社会貢献の一つに研究成果を活用したアウトリーチ活動があげられます.講演会開催時における会員による研究成果の市民への紹介や,地域の活動を支援することなどをシンポジウム委員会,広報委員会,講演会企画委員会の皆様のご尽力で行ってきましたが,オンライン講演会ではこれまでと同様の活動は難しかったのが現況です.一方で,新田出版部長のご尽力で,多様な作物の特性を一般の方々にわかりやすく紹介するための書籍を取りまとめて頂いています.出版業界もコロナの影響を受けて厳しい状況ではありますが,引き続きご尽力を頂けるとお聞きしています.また,「作物栽培大系」につきましても,全8巻の刊行を電子出版なども視野に入れてご検討頂いています.
 若手・女性研究者の活動が活発であることは,オンライン講演会以前の講演会懇親会の参加メンバーを見て感じていましたが,ACSAC10における若手研究者フォーラム「Let’s Talk about Young Scientist’s Presents & Futures」における活発な情報交換の様子をお聞きしても強く感じているところです.オンライン講演会になり,育児中の会員の方が参加しやすくなったこと,一方で対面開催によって地域農業の様子を知りたい,あるいは多くの研究者と直接話がしたいという御意見があることもうかがっています.若手人材育成に関する会員の皆様のお声をこれからもお聞かせ下さい.これまで通り,講演会における優秀発表賞の選考や海外学会出席助成を継続していきますので,是非,積極的なご発表をお願いいたします.
 本学会は2027年には創立100周年を迎えます.これまで50周年,75周年の節目には作物学における学術的成果と学会の歩みを取りまとめてきました.この20年間の農学領域,生命科学領域における学術の進展はめざましく,多様な領域を横断する様々な成果が得られてきました.100周年を迎えるまでの5年間にはさらなる展開があるでしょう.学会には,これまで蓄積してきた多くの知見をまとめ,次の世代にそれらを引き継ぎ,さらなる成果に繋げていく責任があるかと思います.皆様の御意見をお聞きしながら,100周年に相応しい活動の準備に入りたいと考えています.
 最後になりましたが,今回の執行部の最も大きな仕事は,学会法人化を滞りなく進めることであると認識しています.これまで,歴代の会長のもとで法人化の課題等が整理され,山岸前会長のもとで,大川副会長を座長に学会財政・法人化検討WGから評議員会に最終答申を頂き,これをお認め頂きました.今後は法人化準備委員会を設置して,2024年度からの「一般財団法人日本作物学会」の設立を目指します.法人化により作物学会の社会的な位置づけをより明確にし,会員の皆様が活動しやすい環境を整えていければと考えています.この節目の2年間,これまでの執行部が蓄積してこられた学会活動を新執行部においても継承し,各地域,組織,そして会員個々人からのご意見をふまえ,学会運営に取り組みたいと思います.会員の皆様のお力添えをどうぞよろしくお願いいたします.