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日本作物学会会員の皆様へ

会長 山岸順子

 会員の皆様には,平素から学会活動と会の運営に格段のご協力をいただいておりますことに厚くお礼申し上げます.
 今期体制が2020年5月に発足してから1年余りが経過しました.申し上げるまでもありませんが,2020年2月頃よりCOVID-19の感染拡大のため社会全体が大きな影響を受け,学会の活動も変更を余儀なくされてきました.そのため今期はCOVID-19の感染の広がりの中で講演会開催や学会誌発行といった通常の学会活動を継続することが最大の課題となっておりました.一方,会員の皆様には当初,課題として下記項目について挙げさせていただきました.1)ACSAC10(名古屋)の実施とそれに呼応した国際活動強化,2)和文誌・英文誌の一層の充実と発信力強化,3)財政健全化と科研費への対応,4)若手・女性研究者の交流・育成のサポート,5)作物学と作物学会の将来ビジョンに向けた検討,を挙げております.これらの課題なども合わせて,この間の活動を振り返り,ご報告致します.

 2020年春の第249回講演会が中止されて以降,秋に予定されていたACSAC10の延期,第250回講演会のオンライン開催(阿部淳運営委員長,長谷川利拡事務局長),そして2021年春の第251回講演会もまたオンライン開催(京都大学,白岩立彦運営委員長,田中朋之事務局長)となりました.その間,幹事会と評議員会もオンライン開催とし,2021年春の総会も持ち回り開催とするなど異例の方法で行ってきました.第250回講演会においては,緊急にオンライン開催にご賛同いただいた先生方に運営委員をお引き受けいただきました.初めての試みでしたが発表の場を確保することができ,口頭発表58課題が行われました.関わって下さいました先生方に心よりお礼を申し上げます.また,第251回講演会においては,参加者335名,口頭発表(112課題)とポスター発表(49課題)が行われ,ランチョンセミナーなどの新しい試みや2021年学会賞等受賞記念講演に加えて,第249回講演会で行われる予定だった2020年学会賞等受賞記念講演も実施されました.運営委員会の皆様のご尽力に深謝致します.
 講演会のあり方に関しては,春と秋の両講演会の間の参加者数のアンバランスの改善や講演会運営負担軽減を図るため,会員の皆様からのアンケート結果も踏まえて前期において慎重に検討されました.その一環として,京都大学が担当された第251回講演会はオンライン開催となりましたが関東以外で開催担当された初めての春の講演会となりました.学会賞等受賞記念講演を秋に行うことなど他の変更につきましては,今後2022年以降に実現していくことになります.また,今後の状況を慎重に見定めて判断しながら講演会をよりよくしていくための検討を継続してまいりますので,皆様のご協力をよろしくお願い致します.
 アジア作物学会議ACSAC10(於名古屋)は2020年8月31日から9月3日まで開催される予定でしたが,状況を鑑み,2021年9月8日から10日に1年延期した上でオンライン開催とすることになりました(http://acsac10.org/index.html).山内章運営委員長,三屋史朗幹事を始め,運営委員の先生方には長期にわたりご尽力をいただいております.本会議は,アジアを中心とした世界の作物研究の成果が会する場であり,成果発信と共に共同研究などの新たなシーズを育てることのできる場と思います.オンライン開催となったため,途上国の若手の研究者の参加が増えると期待されています.是非活発なご議論をお願いしたいと思います.また,同時に第252回講演会につきましても,9月10日午後にオンライン開催(山内章運営委員長,槇原大悟事務局長)となりました.皆様の積極的なご参加をお願いしたく思います.
 学会誌ですが,日本作物学会紀事の論文掲載数は一時期の低迷から回復し,第89巻,第90巻におきましては以前よりも多くの掲載数となっています.これは投稿数が増加しているためで,ひとえに会員の皆様と編集委員会のご尽力による結果です.また,速報の審査方法を整備するために規則を変更して速報の定着が図られました.さらに,特に若手の会員にとってより親しみやすい和文誌を目指して編集委員会を中心に新しい内容の検討が行われています.和文誌が会員の皆様の情報交換と発信の場としてさらに活発に利用されることをめざします.英文誌PPS(Plant Production Science)は,編集委員会のご尽力に加えて会員の皆様のご支援により投稿が増加しています.海外からの投稿数が全投稿数の6割を超え,Impact Factorも1.696(IF2019)を記録して,国際誌としての位置を確固たるものにしています.ACSAC10の成果からPPSへの投稿・掲載も予定されています.一方,2017年から5年間の「国際情報発信」科学研究費は本年度で終了することから,来年度からの科学研究費の申請を行い,さらなるPPSの発展を図っていく必要があります.皆様のご意見を広く取り入れてまいりたいと思います.以上,和文誌および英文誌を通じて,編集委員会の皆様,および編集および査読に多大なご努力をいただいております会員の皆様に感謝申し上げます.
 財政につきましては,単年度収支の赤字財政を立て直すことを目的として2020年度より会費の値上げをお願い致しました.現在のところ概ね望ましい状況と判断しておりますが,今後も推移を注視していきます.COVID-19の感染拡大のために奇しくも導入された会議等のオンライン開催などを有効に利用することによって,さらに効率的な会の運営を目指してまいります.また,財政の安定化と同時に学会の将来ビジョンとして,より信用・信頼のある組織としての作物学会としていきたいと考え,学会の法人化について積極的に検討を始めさせていただきました.2020年8月7日付けで「日本作物学会の財政および法人化に関わる検討のためのWG」の立ち上げを評議員会メール審議にてご承認いただき,大川泰一郎副会長を座長として検討を開始しております.準備期間を十分取り,会員の皆様のご意見をいただきながら検討を進めていく所存ですので,是非ご意見やアイデアなどご教示下さいますようお願い申し上げます.来年の総会には提案をさせていただきたく,皆様のご理解をどうぞよろしくお願い申し上げます.
 また,本会の活動を基本にした一般向けの情報発信として,出版物の刊行やシンポジウムの開催を進めております.現在,新しい本の出版が新田洋司出版部長を中心に推進されているところです.シンポジウムにつきましては,2022年秋の開催に向けてシンポジウム委員会と第254回講演会開催校である福島大学を中心に検討していただき,「研究成果公開発表」科学研究費の申請を予定しています.
 若手・女性研究者の活動が活発であることは,作物学会にとって必須であり,今後とも積極的に支援していく所存です.ACSAC10における若手研究者フォーラムを始め,講演会での小集会や優秀発表賞の選考や海外学会出席助成に加え,前述しました和文誌やホームページの積極的な利用につきましても,支援を継続していきます.
 以上,ご報告申し上げましたように今期に課された課題は一部で進んでおりますがまだ取り組むべきこと,検討すべきことが多く残っております.継続している課題については今後も引き続き注視・検討を進めてまいります.COVID-19の感染拡大が収束しない中にあって,状況を見定めながら学会活動を継続していくと共に,今後の活動のあり方について慎重に図っていく必要があると思っています.会員の皆様には引き続きご理解・ご協力をよろしくお願い申し上げます.