過去の会長挨拶はこちら

日本作物学会会員の皆様へ

会長 白岩立彦
(京都大学大学院農学研究科)

 会員の皆様には,平素から学会活動と会の運営に格段のご協力いただき厚く御礼申し上げます.今期体制が発足して1年余りが経過しました.この間の活動を振り返り,課題などについて報告申し上げます.昨年の総会では,1.和文誌・英文誌の一層の充実と発信力強化,2.講演会開催の更なる活発化と効率的運営,3.ACSAC10(名古屋)に向けた準備とそれに呼応した国際活動強化,4.財政健全化のための制度検討と収入増取組み,5.若手・女性研究者の交流・育成のサポート,6.科研費の新たな枠組みへの対応,を重点課題として挙げております.

 まず財政健全化についてです.本学会の財政は,近年ほぼ毎年のように単年度収支の赤字を計上しており,非常に厳しい状況となっています.これまで,各種委員会活動や講演会経費,出版経費,若手海外交流助成等について節約に努めてまいりましたが,それも既に万策尽きています.今後の海外交流や講演会の改革,また出版等において活発な活動を維持発展させていくためには予算の確保が必須となります.昨年3月に将来構想検討ワーキンググループ(WG)(大川委員長)からいただいたご提案をもとに,山岸副会長が中心になって種々検討を重ねました.そして,和文誌の購読と同誌への掲載,および英文誌(オンライン)への掲載を希望する会員は年額12,000円(従来10,000円,学生は7,000円に据置き),いずれか一方を希望する会員は年額8,000円(従来6,000円,学生は4,000円に据置き),終身会員の一括会費は120,000円(従来100,000円)とする会費値上げ案を取りまとめ,これを本年3月の評議員会および総会においてご承認頂きました.この値上げは,2020年度(令和2年度)会費からの実施となります.ご理解の上,ご協力をよろしくお願いいたします.なお,上述の答申では,講演会参加費や英文誌投稿料のあり方についても問題提起がなされています.それらについては,引き続き検討を行う予定です.加えまして現在,一般向け出版物の刊行が新田出版部長のもとで企画されています.この活動は数年先の収入につながると考えられるので,是非実現を願っています.執筆予定者各位にはご負担をかけますが,何とぞよろしくお願いいたします.

 つぎに講演会についてです.第246回講演会は,北海道大学で行われました.台風21号の日本縦断の影響を受け,さらに北海道胆振東部地震の甚大な被害のために中止を余儀なくされましたが,北海道支部の皆様と関係各位の懸命のご努力により影響を最小限にとどめることができました.第247回講演会は,筑波大学において参加者470名,発表212題により開催することができました.2つの講演会の運営委員長柏木,丸山両先生をはじめ,講演会開催を支えていただいた皆様に深く感謝申し上げます.講演会のあり方に関して,春と秋の両講演会の間の参加者数のアンバランス,および研究機関が多忙化する中での講演会運営負担の軽減が課題となっています.これについても,将来構想検討WGから種々の提案をいただき,大門副会長が中心になって検討をはじめました.会員各位の講演会についてのお考えを知るべくアンケートを実施したところ,多数の協力を頂き有難うございました.アンケート結果とWG答申を勘案しながら,(1)秋はシンポジウム中心で一般講演をしない,(2)年1回開催,(3)従来通り,の3つの方向性を示し,それらについて3月評議員会で協議いただきました.それぞれについて多様な意見が出され,さらに別の方向性についても指摘があるなど,集約するにはいたりませんでした.この問題については,執行部で再整理し必要に応じて再度アンケートを実施させていただくことにしました.おりしも,来年秋の講演会は東海支部(名古屋大学)にお世話になりACSAC10に連結しての開催という特殊な形がとられる予定です.このため,講演会の持ち方を従来のやり方から大幅に変えるとすれば,2021年度からの実施が望ましいと思われます.そのためには今年度内に結論を出す必要があります.アンケートを実施する場合は,ご協力をどうかよろしくお願いいたします.

 アジア作物学会議ACSAC10(名古屋)は2020年8月31日から9月3日まで開催される予定です.各位のご尽力により科研費研究成果公開発表(C)が採択されたのは喜ばしく,山内運営委員長のもとで準備が本格化しております.すでに組織委員会(国分委員長)が発足し,基調講演,メインシンポジウム,16の課題別セッション,ポスターセッションおよび若手研究者フォーラムからなるプログラムの概要が決定されております.とくに,海外共同研究をされている皆様には,是非ともACSAC10を研究成果発表の場に位置づけていただくとともに,海外からの参加促進にご協力をお願いいたします.なお執行部は坂上海外交流委員長と密接に連絡をとりながら,韓国,中国および台湾の各学会に参加を働きかけているところです.関連しまして,韓国作物学会と本会との学術交流協定の延長が,第247回講演会会場におきまして両学会会長の署名により締結され,引き続きの活発な交流を行うこととしました.また中国作物学会との協定の延長につきましても,諸般の都合により手続きが遅れたものの折衝は順調に進み,本年秋を目処に締結する予定になっております.

 和文誌・英文誌についてです.まず,日本作物学会紀事第87巻4号(10月発行)の論文掲載数が少ないことに気がつかれた方は多いと思います.投稿数が全体に少なかったことによります.執行部として,このことの認識が甘く対応が遅れたことをお詫び申し上げます.和文誌編集委員会(山口委員長)のご努力により当面の危機は脱し,掲載論文数は回復しつつあります.会員の皆様には,是非活発な投稿をお願いいたします.編集委員会ではさらに,投稿の奨励とともに総説の執筆依頼を多数行うなどの努力をいただいています.また新設された速報について,1年が経過して審査方法の整備が必要であることが認識され,現在その検討がなされております.英文誌では本間編集委員長のもと,投稿数は順調に増加するとともに,このほど,“農村発展をめざし農業機械を活用した作付体系研究”に関する特集が発行され,好評を博しています.一度低下したインパクトファクタは回復しつつあり,この傾向が続くことを望んでおります.和文誌および英文誌を通じて,編集および査読に多大なご努力いただいている会員の皆様に感謝申し上げます.

 若手研究者のサポートでは,海外交流基金の枯渇により存続が危ぶまれた海外学会出席助成が,当面存続することになりました.ただしこれは,本会が現在受給している科研費国際情報発信が支えになっております.本制度の財政基盤は磐石とはいえない状況にありますが,引き続き最大限有効に実施していきます.また,ACSAC10での若手研究者フォーラムの成功に向けて,学会を挙げて支援したいと思います.

 科研費について,新しい審査区分の影響などの分析は遅れております.ただし,このたびの基盤研究などの採択課題には,会員からの申請が多く含まれているようであります.引き続き情報収集に努め,対応方策を学会内で共有したいと思います.

 今期に課された課題は,一部で進んでおりますがまだ取り組むべきこと,検討すべきことが残されています.皆様には引き続きのご協力をよろしくお願い申し上げます.