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日本作物学会の会員の皆様へ

会長 山内 章
(名古屋大学大学院生命農学研究科)

 2014年の初めにあたりご挨拶申し上げます.私の任期もあと残りわずかとなりました.これまでの活動をまとめ,次期に引き継ぐ準備をする時期になってきました.今期は,昨年の年頭の挨拶にも書かせていただいたように,これまで学会内で,この学会をよくするための議論が非常に多くなされ,重要なものは各種答申に盛り込まれてきていることを踏まえ,それらの重要なものを実行に移すことを重点的に取り組んできました.その中で,主なものをここ挙げます.

(1)国内外の他学会との積極的な連携による作物学の発展
 農学の力をさらに発揮するためには,本来総合学問であるはずの農学が,これほどまでに細分化し,農学のアイデンティティーがあらためて問われている現状をしっかり認識し,研究自体を発展させていくと同時に,学会も含めた研究や教育を担っている組織も総合していく必要があると私は確信しています.この点から言いますと,自分自身の努力不足から国内の他学会などとの連携に関わる活動は今期では不十分だったと言わざるをえません.今期から立ち上がった学会戦略ワーキンググループ(大門弘幸座長)では,この方向と必要性について共通認識を持つことができているので,ぜひここを核としてこの議論を加速していっていただきたいと思っています.
 また,海外では,海外交流推進委員会(坂上潤一委員長)を中心に活動が進められてきました.講演会での国際セミナーの開催も積極的に行われてきました.また,アジア作物学会議への積極的貢献も行ってきており,第8回会議(2014年9月23-25日)の開催に向けても準備が着々と進んでいます(http://acsac2014.com/index.htm).
 また,中国作物学会との交流協定に関して,森田会長,国分会長の時代に基礎を作られ,大杉会長のときに締結した学術交流協定が去る11月で期限切れとなったため更新しました.今後,実質的な連携,交流の発展が期待されるところです.
 韓国作物学会との交流は大きく前進しました.2012年9月に開催した第234回講演会(東北大学)には,先方の学会の執行部が参加して下さり,国際セミナー「韓国作物学会の現状と展望」で,Kim次期会長(当時)が講演されました.また,翌10月に開催された,韓国作物学会50周年記念大会では,英文誌編集委員長の白岩先生や私などが,国際シンポジウムに招へいを受け講演をし,2013年3月開催の第235回講演会(明治大学)へは,Woo Sun-Hee事務局長らが参加して下さいました.続いて5月に開催された韓国作物学会春季学術発表会には,こちらの作物学会から国際シンポジウム(テーマは,食糧自給率)の招待講演者(武本俊彦農林水産省農林水産政策研究所所長(当時),寺島一男中央農業研究センター所長)を推薦し,講演をしていただきました.さらに同年9月の第236回講演会(鹿児島大)には,若手も含め7人もの方々が韓国作物学会から来て,一般講演でも発表して下さいました.そして,翌月に開催された韓国作物学会秋季学術発表会には当学会から若手を中心に9名が参加し,一般講演も含めて研究発表を行い,今年3月開催の第237回講演会(千葉大)には,Kim前会長を招へいして講演をしていただく予定になっています.
 このように,シンポジウムやセミナーに加えて,すでに始めた一般講演での相互乗り入れを今後も積極的に進めていく方針です.当学会は,科研費で研究成果公開促進費をいただいていまして,とくに国際的な情報発信力強化のために支援を受けています.それを活用してこれからは,とくに中堅,若手が一層韓国との相互交流を深め,切磋琢磨しながらお互いの研究を発展させていっていただければという願いを込めて,若手会員の渡航,参加を支援しています.来年度に向けても,英文誌編集委員会の白岩委員長を中心に計画調書を作成し,科研費を申請していただいています.このような資金を活用して,韓国作物学会との交流を今後も一層強めていきたいと考えています.
 今こそが,様々な面から考えても,韓国や中国との交流を実質的で確固たるものにする絶好の機会であるとともに,学術を担うものとしての責務でもあると思います.

(2)講演会・学会誌関連の改革
 これらも上述の答申に盛り込まれている内容です.これら2つは,言うまでもなく,学会活動の根幹をなすもので,学会員の研究業績を公表する機会をどう提供できるかが学会の役割であることから,その障害となるものは可能な限り減らすことが重要です.
 まず講演会につきましては,学会執行部・事務局と講演会運営委員会との連携を緊密にし,さらに,引継ぎ等の運営委員会の負担を軽減するために,講演会担当幹事を新設することが決まりました.また講演要旨について,現状の講演要旨は2ページですが,次期から,それを1ページまたは半ページに減らすことが決まりました.このことによって発表前の要旨の準備のための負担軽減と,さらに,2ページ要旨によって未発表のデータをオンラインで公開することに対する会員の危惧の軽減に貢献することが期待されます.さらに,若手会員のために,講演発表における若手研究者の情報提供方法の一環として,講演要旨の発表者名欄に,学年,就職活動中であることなどを付記するように様式を変更します.これらについて,1年以上かけて慎重に議論をして下さいました関係者の皆様にあらためてお礼申し上げます.
 このように講演要旨を短くする代わりに,これらの受け皿になるようなあたらしい論文の分類を設けることが,和文誌編集委員会で検討されています.投稿数が激減している日作紀の役割の見直しも含めて,ぜひ,会員の成果発表の場が拡張される方向で検討が進むことを願っています.
 一方,英文誌Plant Production Scienceは,現在,日本学術振興会の科研費「国際情報発信強化」の補助を受けています.これら学会誌は,まさに,若手会員の研究成果を積極的に公表する場として,またわが国の優れた農業技術や基礎研究の成果を国際的に発信するために存在することを会員間で強く認識しあって,投稿者,編集委員,査読者,読者としてさらに一層盛り上げていただきたいと思います.

(3)オンライン会員情報システムの導入
 情報委員会を初めとする関係者のご努力によりまして,昨年10月より導入が始まり,年末には本格的に運用されるに至りました.これでようやく,普通の団体のようにオンラインから入会や更新の手続が可能になりました.また,これによって,学会内の会員構成の情報をより早くまた正確に得ることができ,若手支援や男女共同参画促進を初めとする,諸課題のための有効な施策を考えるための基盤ができました.また間もなく実施される会長選挙・評議員選挙にも利用します.まだ登録をされていない会員におかれましては,短時間で済みますのでぜひ速やかな登録をお願い申し上げます.
 昨年実施しました予備的な調査では,当学会員の年齢構成は,50歳代をピークとした逆ピラミッドになっています.また,女性会員の全体に占める割合が,20歳代から30歳代にかけて激減します.これらの点については今後さらに正確な分析を行う必要がありますが,このまま推移すれば当然毎年学会員は減少します.その対策としては,若手会員の中心を占める学生・大学院生をできるだけ多く迎え入れることが必要です.作物学を筆頭に農学は,他の分野に比べ一般にみずからの研究活動からその出口への道筋が格段に理解し易く,それが日本農業であれ,世界の食料問題であれ,それがはっきりすると,若者は目を輝かして研究に取り組みます.中堅どころとしては,大学や農研機構などの研究所では大幅な会員増は見込めないとすると,やはり,これまで学会が取り組んできた,県農試を初めとする,現場に非常に近いところで研究や普及に従事している方々をターゲットに,活動を組む必要があります.また,学生の時代には,作物学を目指す女性会員は比較的多いのに,就職を迎える30歳代になると女性会員割合が激減するという事実は,優秀な研究者の会員の失っている可能性を示しており,男女共同参画活動の重要性と緊急性と同時に,具体的課題のヒントも示されていると思います.
 その中で,上述したように,みずからの研究成果の発表と他の作物研究者との議論と情報交換の場である,講演会と学会誌が最も重要であると私は考えます.いかに講演会に参加しやすく,発表しやすい環境を整えるか,これが学会の役割でしょう.また,学会誌に関しては,学生・大学院生は多くの場合,論文を書くのが苦手です.またわが国の優れた農業技術を根底から支える研究成果を出している県農試などの研究者の方々にも,学術論文の執筆には慣れていない方が多いことを認識し,これらの会員の論文執筆と公表をサポートし,国内外に発信する機能が,学会誌ではない,その他のジャーナルとの決定的な違いでしょう.本気で作物研究者の層を厚くするには,学会はこのような役割を果たすことが必須であると思います.これら以外にも,学会賞関連,広報活動,出版活動などにも,関係者のご努力により,大きな進展が見られています.
 農業を取り巻く状況はたいへん厳しいものがありますが,それゆえ,作物学研究者に対する社会からの期待は大きく,研究者が自信と誇りを持って研究を推し進めていただきたいと思います.本学会が,会員の研究の進展と,交流を促進する場としての機能をますます発揮できるように,会員の皆様から,ご意見を積極的にお寄せいただくと同時に,ご支援,ご協力を重ねてお願いいたします.