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日本作物学会の会員の皆様へ

会長 山内 章
(名古屋大学大学院生命農学研究科)

 私が会長に就任してから10ヶ月目に入りました.2013年の年頭のご挨拶として,これまでの活動のまとめと,今後の方針について日頃考えていることを述べさせていただきたいと思います.この間,歴代の執行部を初めとする会員諸氏が,本学会をよくするために,様々な改革に取り組んでこられたことが,各種答申や会議議事録等を読み,理解することができました.就任の時のご挨拶として日作紀や学会ホームページに掲載させていただいた中に,今期は,これらの提案を可能なところから実行に移していきたいという抱負を述べました.詳細につきましてはその挨拶文を参照にしていただければ幸いです.とくに,前期の平沢会長に対して,財政検討ワーキンググループならびに(学会)将来構想検討ワーキンググループが,非常に重要な答申を提出して下さいましたし,また後者は,会員の実態・意識を知るための広範なアンケート調査も実施していただいています.
 言うまでもありませんが,このような検討は,一朝一夕でできるわけはなく,総会での承認を経て学会内で正式に設置された委員会やワーキンググループにおいて,学会員の民主的な議論を経て多くの時間と労力を割いてできあがってくるものです.したがいまして,その中に盛り込まれている数々の提案については,実行するかどうかよりも,むしろどうやって実行するのかが議論の対象になるべきであると思います.そうでないと,議論ばかりが繰り返されて,学会内で改革は一向に進まないことが起こりうると思います.

(1)国内外の他学会との積極的な連携による作物学の発展
 今年の重点課題の一つとして,国内他学会との連携を挙げていましたが,いまのところ具体的な成果は挙がっていないので,今後この動きを加速させていきたいと思います.先輩会員と話をしていますと,この課題は繰り返し議論されてきていて,合同シンポジウム,合同講演会,共同研究立案などはすでに実施されていますが,それ以外に組織的な統合についてもかなり突っ込んだ議論がすでにされてきたことがわかりました.そのようにすでに議論されたことを掘り起こし,整理し,今後の道筋を立てていきたいと思います.
 本来総合学問であるはずの農学が,これほどまでに細分化し,農学のアイデンティティーがあらためて問われているのに加え,学会組織としても,農学関連の中ではほんのごく一部を除き,多くの学会では共通して,学会員数の伸び悩みや減少によって,維持,運営に大きな支障をきたしている現状があります.この現状を直視し,連携の議論を深めていく必要があると感じています.
 一方,海外の諸組織との連携も重要です.昨年8月6~10日に,ブラジルで開催された第6回国際作物学会議に出席してきました.世界の作物学はどこを向いて研究しているのかを知るにはたいへんよい機会で,人類の食料問題は,われわれ作物学者の手で解決するのだという意気込みを目の当たりにして,あらためて作物学の重要性を認識することができました.一方で,日本での研究成果がほとんど国際的には認知されていないことと,世界の作物学者の研究の関心事からみると,とくに最近の日本の作物学の方向は相当にずれていることも認識できました.
 ブラジルは,アメリカをもしのぐ勢いの農業力をバックにして,研究者は自信に満ちあふれ,研究者の待遇も日本よりよく,農学部卒業生の就職は民間企業も含めて比較的よく,国全体が明るい雰囲気に包まれている様な印象を受けました.日本からは15人程度が参加していました.若手,中堅がほとんどで,海外で活躍している研究者も直接参加されていて,非常に頼もしいと感じました.
 会議は,韓国作物学会とアメリカ作物学会が中心となって動かしているようで,ビジネスミーティングで次回の4年後は中国がホストとなることが決まりました.将来の日本への招致の可能性も検討してはどうかと思います.これで,その次は,アジアになることはないでしょうから,われわれが考えるとしても12年後ということになるでしょうか?
 また,中国作物学会とは,森田会長,国分会長の時代に基礎を作られ,大杉会長のときに学術交流協定を締結していますが,韓国作物学会ともこれまで交流してきた経緯はありますが,しばらく活発な交流は途絶えていました.昨年9月10~11日に東北大学で開催されました第234回講演会には,Lee会長を初めとする執行部が出席され,国際セミナー「韓国作物学会の現所と展望」で,Kim次期会長が講演されました.また,10月10~12日に開催された,韓国作物学会50周年記念大会には私が出席し講演を行ってきました.
 この間の交流で,あらためて日韓の強い絆を感じることができました.とくに,今定年を迎えようとしている世代,あるいはそれより上の世代の韓国の作物学研究者の方々は,非常に高い割合で日本に留学したか,日本人研究者との共同研究の経験があり,話をしていると,私たちの大先輩や,教科書や論文で存じ上げる,日本の作物研究者のお名前がどんどん挙がってきます.極めて親日的です.それよりも一世代若くなっても日本で教育を受けた方の割合はまだ比較的高いですが,それよりさらに若くなると,アメリカやヨーロッパ,あるいは自国で博士学位を取られた研究者の割合が急速に増える印象を持ちました.このような状況はおそらく中国にもある程度当てはまるのではないかと思います.したがって,今こそが,韓国や中国との交流を実質的で確固たるものにする絶好の機会だと思いますので,具体的な研究交流計画を提案していきたいと思います.
 この点において,昨年の幹事会でも大きな話題になりましたが,PPSへの出版補助のための科研費申請に関わって,日本学術振興会(JSPS)の方は国際発信力の強化を強く求めてきていて,平成25年度に向けては,「国際情報発信強化 計画調書」の提出が求められました.PPS編集委員長の白岩先生を初めとする関係者の皆さんの努力によってたいへん説得力のある調書ができ提出することができました.一方で,JSPSにとっては,農学分野でいくつか林立している「諸」学会を整理して,また学会誌も整理して,世界の研究をリードできるような学会や雑誌を支援したいという意図があります.その際に一つの可能性としては,国内他学会との連携,そして海外で可能性があるのは,韓国や中国との連携です.また,海外交流促進委員会の前委員長の鴨下先生,現委員長の坂上先生らの強いリーダーシップによって,アジア作物学会議との強いパイプができあがっています.これらの成果を踏まえて,Asian Journalのようなものを展望して議論をしていく時期に来ているのではないかと思います.

(2)講演会関連の改革
 これらも上述の答申に盛り込まれている内容です.学会の基本的な役割は,学会員の利益のためにあって,その研究業績を公表する機会をどれだけ提供できるかで,講演会とジャーナルへの発表のしやすさそのものが学会の存在意義ですから,そうした立場から議論を整理する必要があると思っています.とくに,これから作物分野で仕事を得ようとしている会員にはこのことは決定的に重要です. まずは,発表の促進を主たる目的として,講演要旨のスリム化を進めていきたいと思っています.これは,多くの会員が賛同する方向ではありますが,会員の業績や運営委員会の収益との関連にも考慮する必要があるので,引き続き議論をしていきます.さらに,より多くの会員や支部会員の参加を促すために,講演会セッションに,たとえば農業普及,農作業,農業教育,国際農業などの分類をあらたに設けることを検討していきたいとも考えています.
 一方,2ページにきちっとまとめられた要旨は,会員が長きにわたって継続,積み上げをしてこられた学会の財産であります.したがって,もし講演要旨がスリム化された場合には,この財産を活かすために,査読を経て論文化できないかと考えて日作紀編集委員会に検討をお願いしました.すなわち,要旨を書き直した上で,これらを査読して,あたらしいカテゴリーを設けて論文化できないか,という提案です.年間300余報が講演要旨として発表されます.このうち,日作紀,あるいはPPS,またはその他の雑誌で論文にならないものがどれくらいありますでしょうか?もちろん査読をどうするのか,誰がそれを負担するのかなど,解決しなければならないことがいくつかあることは承知しているつもりです.日作紀では難しければ,以前あったような,Proceedingsというのを発行することも考えてもよいかも知れません.これまでの要旨のように,originalityの取り扱いがはっきりせず,問題になるものをいつまでも残しておくのではなく,査読つきであることをはっきりしたもの(論文)にしておくことが,会員にとってメリットが大きいかどうか検討に値すると思います.

(3)会員情報の収集
 歴代の執行部が取り組まれてきた,会員実態調査についても前進させたいと思っています.このことは,今後の学会戦略を考えるための基盤となる情報整備であり,必須です.昨年末の会員更新に当たって,このような情報提供を会員の皆さんにご協力いただけるよう呼びかけました.ここから,若手支援や男女共同参画促進を初めとする,諸課題のための有効な施策が出てくるはずです.このための会員情報管理システムの導入も同時に検討を進め,なるべく早い機会に会員の皆さんに具体的に提案します.

 今回は触れることができませんでしたが,学会賞関連,広報活動,出版活動,支部との連携などにも大きな進展が見られています.こうした会員の皆さんによる献身的なボランティア精神によって,会員の研究と交流を促進する場としての本学会の活動が維持されています.今年も,会員の皆様から,ご意見を積極的にお寄せいただくと同時に,ご支援,ご協力を重ねてお願いいたします.