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日本作物学会の会員の皆様へ

会長 森田茂紀
(東京大学大学院)

 日作紀とPPSはいずれも今年の1号から,従来のスケジュールより約2ヶ月ずつ早く発行されることになりました.そのため,この会長挨拶は年頭に書いておりますが,最後のご挨拶になりますので,2年間,学会活動にご協力頂きました会員の皆様と役員の方々に,心よりお礼を申し上げます.2年ほど前に会長に就任致しましたときに,退任時には将来構想・学会戦略の策定と,それを計画実施するための体制を確立し,それを担う次期の執行部を新しい選挙制度によって選出することを目標にしたい,と申し上げました.2年間は必ずしも長い時間ではありませんでしたし,私の努力不足からすべてを実現することはできませんでしたが,皆様のご協力を得て,いくつか実現できたこともあります.体系的ではありませんが,以下に今期の活動を整理するとともに,残された課題を提示して,総括とさせて頂きたいと思います.

1.学会体制の整備と強化
 (1)会長・評議員選挙の改革 会長選挙については立候補・推薦制を導入し,学会活動に関する考え方を表明した候補者の中から,会員が直接選挙によって選出することになりました.また,地域ごとに選挙によって選出された評議委員数の1割以内について,会長が評議員会の承認を得て追加指名できることになりました.明確な考えを持った会長を中心にした強い執行部によって学会活動をリードしてもらうことが改革の趣旨です.制度の不備は早急に整備しなければなりませんが,改革の趣旨が活かされることを期待しています.
 (2)会長裁量経費 これまでは,予算成立後に新たに生じた状況に対する予算的な措置が難しいところがありました.そこで,1年目の実績をもとに,会長裁量経費を予算に計上してもらいました.この費目が効果的に運用されることを,期待しています.
 (3)事務取扱所との分担・協力 今期から共立印刷への事務委託を見直し,役員の負担をできるだけ減らす方向で進めてきました.移行時期には混乱も予想されましたが,共立印刷のご協力と役員のご努力によって,新しい体制が確立してきたことに感謝しています.
 (4)委員会制度の充実 委員会制度をとると縦割りとなり,委員会や幹事相互の連携が不十分になりやすい傾向がありますが,今期は各委員会が相互に密接な連携を取り,積極的に新しい提案をしてくれました.まだ,必ずしも十分とはいえませんが,委員会相互の分担協力関係を見直す機運が生まれてきたと感じています.
 (5)学会戦略WGの設置 会長判断で,学会戦略WGを設置させて頂きました.従来にはなかった組織であり,会長の私的諮問機関であるために位置付けが不明確で,活動し難い点があったと思いますが,そのような状況の中で積極的に問題の整理や対策の提案をしてくれました.そのお陰で幹事会や評議員会でも認められるようになり,学会として積極的に位置付けたらどうかというご意見を頂くようになりました.従来の組織との協力分担を明確にしたうえで,学会としての意思決定のために積極的な提案をするような組織として位置付けられればと思います.
 (6)支部との連携 本会と支部との連携強化は,長年の課題であります.会長就任当初に,両者の連携を強化するための具体策を提案したことは,拙速すぎたと反省しております.この点については建設的なご批判を頂いたことに感謝しています.そこで,まず相互交流の実績を積むことが必要と考え,2年とも,すべての支部にお邪魔させて頂きました.支部会に参加することを中心にした非常に短い時間でしたが,支部によって歴史的な経緯や育種学会との関係などに様々な違いがあることを肌で感じることができました.連携強化の具体化まで至らなかったのは私の力不足ですが,今回の経験を基に,今後は一会員として本会と支部との連携強化に協力していきたいと思います.

2.情報の公開と共有化
 (1)学会のホームページ 最近,ホームページが果たす役割が非常に大きくなっていますので,学会のホームページの充実に努力してきました.この件では関係者に大きな負担を強いる結果になりましたが,お陰様でかなり充実したものになり,学会としての情報公開に役立つとともに,学会のプレゼンスを示すために大きな効果がありました.今後もさらに進化することを期待しています.
 (2)情報の公開と共有化 毎号,日作紀の巻頭に会長挨拶を掲載して頂き,四半期ごとに重要事項のご報告やお願いを致しました.また,「学会からのお知らせとお願い」ではこれからの出来事を,巻末の「会務報告」ではこれまでの出来事を整理しました.さらに,評議員の皆様には毎月メールで「*月の動き」をお送りして,前月の出来事の報告や今後のお願いをしました.学会の重要事項を審議して頂くためには,年に1回の評議員会や総会だけでは十分でないと考え,風通しをよくするために試みたことです.効果があったとすれば望外の喜びです.
 (3)日作紀・PPSのオンライン化 学会誌の内容を無料で公開することは,会員の権利を侵害して,会員数の減少につながるのではないかという危惧もありましたが,情報を公開していくことが最終的に学会のためになるという建設的なご意見が多かったため,J-stageを利用して日作紀およびPPSをオンラインジャーナルとして閲覧できるようにしました.この件では,両編集委員会に多大のご努力を頂きましたことに感謝しております.なお,従来および今期の編集委員会にご努力頂きました結果,PPSのインパクトファクタが0.316から0.516へ上昇しました.また,両誌のインパクトファクタをさらに上げるために,日作紀およびPPSの刊行時期をそれぞれ2ヶ月ずつ早めることになりました.
 (4)講演会の申し込みと講演要旨の投稿 この2つをオンライン化する本格的な試行が始まっています.関係者のご尽力に感謝申し上げるとともに,早く軌道に乗ることを期待しています.

3.作物学・栽培学の新しい発展
 (1)日作紀・PPSの充実 多くのいい研究が行われ,それが講演会で発表され,学会誌に掲載されることが学会活動を発展させていく基礎となることが確認され,両誌を充実させるための努力が続けられています.例えば,作物の形態研究法の連載が開始され好評を博していますが,総説をさらに充実させる必要があります.
 (2)作物栽培学大系 日本作物学会編として,朝倉書店から全8巻を刊行することになり,企画が進められています.
 (3)作物学用語解説集 従来の用語集を進化させて,用語解説集を出版することが決まっており,編集作業が具体化しています.
 (4)レビュー委員会の活動 「日本作物学会50年の歩み」に続き,「温故知新」が学会誌のレビューとして刊行された後も,レビュー委員会が中心となって学会として定期的にレビューを継続していくことになりました.また,学会からの発信を組織的・体系的に進めるため,作物学用語解説集を除く企画は,できるだけレビュー委員会で統括する方向で進められています.委員会の名称変更を含め,レビュー委員会が学会から研究成果の発信に関する統括部門として位置付けられることを期待しています.

4.海外交流の積極的な推進
 (1)国際コメ年におけるワークショップの開催 2004年は国際コメ年であり,つくばで国際会議が開催された際に積極的に参加し,温度関係のワークショップを企画しました.
 (2)アジア諸国との連携強化 前期執行部からの引き継ぎ事項として,中国と韓国を始めとするアジア地域における連携強化があります.2004年の沖縄の講演会では,中国と韓国の作物学会関係者を招聘しました.2004年と2005年には,森田が日本作物学会長として中国作物学会で講演しましたし,2005年に韓国で開催された環境調和型農業に関する国際シンポジウムで井上吉雄会員と森田が招待講演を行うなど,地道な交流が重ねられています.2006年には国際ミニシンポジウムが企画されています.これがステップとなって,2007年にタイ王国のチェンマイで開かれるアジア作物学会議に中国が参加することが期待されており,日本作物学会としてもこれを支持していくことになっています.また,2008年には韓国の済州島で世界作物学会議が開催されますので,日本作物学会として積極的に係っていくことが評議員会で確認されています.

5.若手研究者の育成
 小合龍夫名誉会員から学会へご寄付を頂いたことを機会に,これを基に若手研究者の育成を支援するシステムを立ち上げることになりました.現在,具体的な検討を進めており,今年から実施できる見込みです.

6.遺伝子組換え作物への対応
 遺伝子組換え作物に関する学会としての姿勢を問われるようになってきたため,WGを設置して検討を進めてもらっています.昨年は,日本農学会が主催した遺伝子組換え作物に関するシンポジウムにも参加しました.学会としての統一見解を持つことは難しいかもしれませんが,できるだけ先送りや棚上げしないで,学会としての取り組みを発信していければと期待しています.

7.残された課題
 (1)会則の改定 会長・評議員選挙に係る部分は,すでに述べたように整備が必要です.それ以外の部分についても会則の見直しを行って,実態に合わない部分などについては,必要な改定を行う必要があると思います.委員会の内規なども必要に応じて整備を進めていくべきです.
 (2)学会の将来構想 学会としての将来構想を検討すべきだと考えています.そのうえで,それを実現するための組織やシステムを整備していくべきでしょう.
 (3)社会的発信 作物学・栽培学に関する研究成果を発信していくべきであることはいうまでもありませんが,学会のプレゼンスをアピールする社会的な活動も必要です.政策および資格とどう係るかということと,初等中等教育にどう係るかがポイントになるような気がします.
 (4)特別会計の有効利用 特別会計の中には存在していること自体が重要なものもありますが,実質的に長年に渡ってまったく,あるいはほとんど動いていないものも多いようです.必要な時期には取り崩して,学会のための新しい企画に使う勇気も必要ではないでしょうか.
 (5)本会と支部との関係 両者にとって相互にメリットのある連携の仕方を今後も,模索していく必要があります.
 (6)他の組織との連携 今期は問題提起しただけで,実質的には動けませんでしたが,他の学会などの組織との連携も,これからは考えていく必要があると思います.その場合,広い範囲の組織を対象として考えておく余裕がほしいところです.