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日本作物学会会員の皆様へ

会長 大川泰一郎
(東京農工大学大学院農学府)

 最初に,本年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」で被災された皆様,会員の皆様にお見舞いを申し上げます.一日も早い復旧,復興を願っております.
 この度,2024年4月から2年間,一般社団法人日本作物学会の会長(代表理事)を拝命いたしました.100年近い歴史と伝統を有し,作物に関わる科学と技術の発展に貢献してきた日本作物学会の法人としての1年目でもあり,責任の重さを痛感し,身が引き締まる思いです.推薦を頂きました先生方,信任をいただきました代議員の皆様に御礼申し上げます.学生の頃より本会や支部会での講演会で緊張して発表の際には,諸先輩はじめ会員の皆様から叱咤激励をいただき,また若手の会,懇親会での交流,意見の交換をする機会を頂きました.常に刺激を頂き育てていただいた学会に恩返しをするため,微力ではありますが作物学研究の発展,農業の発展に貢献するため,大門前会長からバトンを引き継ぎ,会員の皆様,各地方区から選出された代議員会の皆様とともに,副会長,各種委員会委員,幹事と力をあわせ本会運営に尽力していく所存ですので,ご協力のほどよろしくお願いいたします.
 世界に目を向けると,世界人口の増加,気候変動,戦争などの要因により,世界の食料生産は不安定化しており,加えて,化石燃料の枯渇,価格高騰,気候変動,CO2削減などの問題解決は世界的な課題となっており,持続的な食料・農業生産への転換が求められています.国内では,食料の安全保障から食料自給率の向上,資源循環型農業への転換,気候変動対策,東日本大震災,能登半島地震からの農業復興など解決すべき課題が山積しています.これらの問題に深く関わる作物学会はこれまで以上に,他の学問分野と人的交流,連携を深め,これらの問題に立ち向かい,解決のための研究の推進と技術開発,普及に貢献するため,法人としての社会貢献活動を推進していきたいと思います.
 本会では2020年度より法人化WG,法人準備委員会にて法人化を進め,「一般社団法人日本作物学会」は2024年度は法人完全移行1年目になります.定款第3条には,法人の目的として,「この法人は,作物科学に関する研究の推進と成果の発信により,作物科学の発展および作物生産技術の普及への貢献を目的とする.」とし,目的の達成のための学会の事業として,「(1)講演会 ,シンポジウム,その他研究会等の開催,(2)日本作物学会紀事(和文誌), Plant Production Science(英文誌)及びその他出版物の発行,(3)学会賞等の授与,(4)地方活動及び地方談話会の支援,(5)研究成果に基づく社会への提言,(6)内外の関連学会,関連団体との協力,国際交流の推進,(7)その他この法人の目的を達成するために必要な事業」としています.これら7項目の達成に向け,新執行部の青木直大副会長(理事),本間香貴副会長(理事),庶務幹事,会計幹事,各種委員会とともに,以下の取り組みを進めて参ります.皆様のご協力をよろしくお願いいたします.
(1) 講演会 ,シンポジウム,その他研究会等の開催促進
 2020年から拡大したコロナウイルス感染症により2022年まで3年間にわたり,オンラインでの講演会,シンポジウム開催を余儀なくされました.2022年の秋の講演会はようやく対面での講演会が再開され,2023年春には懇親会も再開されました.対面での講演会にて,対面で発表し質疑を行い,情報交換,研究交流を行い,世代や分野を超えて研究仲間をつくることの重要性を改めて認識しています.春と秋の講演会での対面開催に加えて,オンラインでのセミナー,研究会は同じ研究分野間や異なる研究分野間の情報交換には有効な手段になります.法人となった作物学会では,これらのセミナー,研究会の主催,共同開催,後援にも積極的な取り組みを「シンポジウム委員会」,「講演会企画委員会」を中心に検討していきます.
(2) 日本作物学会紀事,Plant Production Scienceの充実と発信力強化
 本会の和文誌である「日本作物学会紀事」は本巻で93巻2号までの発行実績があり,1927年1巻以降,今年で97年の長い歴史があります.国,都道府県の研究機関,大学からの投稿が多く,編集委員会では「作物生産の現場がみえる学会誌」と位置づけ,学術的論文に加え地域の作物生産に関する新知見や応用的・技術的論文の審査を行っています.英文誌の「Plant Production Science」は1998年から今年で27巻を刊行し,コロナの影響で一時,投稿数,掲載数に影響が出たものの現在,コロナ前まで回復し,国内外の皆様からの活発な論文投稿がされております.英文誌のIFは2.5 (2022)となり毎年増加している状況です.今後も「和文誌編集委員会」,「英文誌編集委員会」を中心に,Review論文や特集など内容の充実を進め,国内外への発信力の強化に努めていきます.
(3) 国際交流の促進
 本会では世界やアジアでの食料生産,持続的農業,気候変動対策などに関わる研究成果の議論,国際交流の場として,国際作物学会議,アジア作物学会議のメンバーとして活動しています.2021年には第10回アジア作物学会議(ACSAC10)が名古屋で開催され,2025年5月19~22日にはACSAC11が台湾の台北で開催されます.三重大学で開催された第257回では台湾から運営委員会のメンバーが来日され,プロモーションが行われ,本会の会員との交流が行われました.「海外交流推進委員会」を中心に,今後もさらなる国際交流の活性化に向けて取り組んでいきます.
(4) 地域談話会等との連携強化
 任意団体では各地方区に支部を置き,地域の農業,現場の作物生産など実践的な研究に関わる情報交換を本会と連携して進めてきました.法人では他学会とも連携可能な地域談話会として,本会は談話会の活動を支援する形でこれまで以上に連携をさらに強化していきます.
(5) ダイバシティの推進
 任意団体では「若手・男女共同参画ワーキンググループ」にて,男女共同参画,若手研究者支援に関する課題について検討し,講演会での託児所の設置,講演会,学会誌での企画,若手研究者の海外交流支援などを実施してきました.法人ではこのWGの提案を踏まえ,「ダイバシティ推進委員会」を設置し,世代,性別,国籍,専門の学問分野,職位,生産者,研究者などさまざまな壁を超えた交流を促進し,学会での多様な研究者が活躍し,さまざまな意味での異分野の方との交流人口を増やし,また入会される方を増やしていくための方策を検討し,活気ある学会を目指していきます.
(6) 法人の広報・社会貢献活動の促進
 法人化にあわせ,広報委員会を中心に学会ホームページ(https://cropscience.jp/)を刷新しました.会員だけでなく一般の方への情報提供,講演会,シンポジウム,学会誌,地域談話会などの情報発信がさらに強化されました.多くの方の訪問をお待ちしております.出版部では,「作物栽培体系」5巻を刊行し,法人化を機に一般の方向けの企画を検討しており,今後,「広報・社会貢献委員会」,「出版部」を中心に講演会,出版などの社会貢献活動を充実させていきます.
(7) 2027年の設立100周年記念事業に向けた取り組み
 「総合的な学術である農学において,その主要な要素である作物学分野の進歩のために,同好の士が集う組織を設立したものである.」の設立趣旨として,1927年4月8日に「日本作物学会」が設立されてから,今年で97周年,2027年には100周年を迎えます.2023年春の講演会では96周年特別シンポジウム「食料危機に立ち向かう作物科学」を開催し,100周年に向けた企画がスタートしました.100周年のロゴ(本会のさらなる発展を祈念して,たわわに稔る黄金色の稲穂で,100の中核を表現するとともに,その先の発展への意気込みをBEYONDで表現)も広報委員会で作成し,HP,講演等で使用し,100周年に向けて盛り上げていきます.2027年には学会誌等でのレビュー集の企画,記念式典,他学会との記念合同シンポジウムなどの企画を「100周年記念事業準備委員会」にて検討していきます.

2024年4月