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日本作物学会の会員の皆様へ

会長 齊藤 邦行
(岡山大学大学院環境生命科学研究科)

 2014年4月から2年間,会長を勤めさせていただくことになりました.1927年創立以来,87年の長い歴史を通して本学会が果たしてきた農業発展における役割を振り返りますと,その任の重さに身が引き締まる思いです.推薦を頂きました先生方,そして信任を頂きました会員の皆様に厚く御礼申し上げます.微力ではございますが,評議員,各種委員会委員,幹事,そして何より会員の皆様と力を合わせて,本会の更なる発展に貢献できることを目標に,努力したいと思います.もとより,前期執行部から,本会運営改革を継承することを重視して推薦され,信任いただきましたので,これまでの運営方針に則り,改革を定着させていくことが,当初の課題と考えております.

1.学会の基盤である会員数が下げ止まる
 これまで,日本作物学会活性化方策が幾度となく議論され,学会誌機能の強化,投稿者の負担軽減,若手研究者の育成,関連学会との交流,アジア諸国との学術交流促進等が実行に移されてきました.山内前会長のもとで,講演要旨のスリム化,英文誌・和文誌の改革,オンライン会員情報システムの運用と選挙利用,出版部創設が提案され,具体的に推進されて来ました.いずれも本会の活動を魅力あるものとし,若手を中心とした新規会員を増加させることを目的としています.会員数は2000年度末の1797名から2013年度末1219名に減少しています.この間減少を続けた正会員数は,2011年度-71名,2012年度-63名,2013年度+36名と,減少にやっと歯止めがかかって来ました.歴代の会長によって継続された日本作物学会活性化方策が,やっと功を奏してきたと思われます.会員数の減少は,本会の問題のみならず,日本農学会に登録されている大部分の学協会が直面している課題です.少子高齢化とともに,地方大学の多くが定員削減により小講座制から大講座制へと移行して,研究室の多くが2~1名体制に変更され,若手教員の補充が滞り,作物学を専攻する教員,学生,大学院生の総数が小さくなっていること,国・地方の農業研究機関の定員削減と組織改編に伴う作物学に関連する研究員の減少,理系女子の増加に対応したキャリアサポートの不足などが関係すると考えられます.今後も,学会活性化策を継続的に実施して参りますので,学生,大学院生,地方の研究機関の研究員の方で未加入の場合には,新規会員の勧誘にご協力をお願い申し上げます.

2.魅力ある講演会になるように
 講演会は作物学に関する研究成果の発表,知識の交換,研究者相互及び国内外の学会との連携を行う場であるといえます.参加したくなる魅力ある講演会とするため,会員の関心ある事項に関して,情報交換が広い視点から活発にできる場となるような企画をシンポジウム委員会にお願いしたいと思います.前期に導入された会員情報システムを使って,シンポジウム課題・企画を公募し,きめ細かい要望に応えて行きます.今期秋の講演会からこれまでレターサイズ2ページの講演要旨が1ページに変更されます.これに伴い,要旨作成に要していた時間が短縮されますし,学会発表に対するハードルが軽減されます.この点を考慮頂き,是非とも第238回講演会(愛媛大学)では,大学院生のみならず,学部生,地域の研究者に数多くの講演発表を行って頂けるようお願い申し上げます.
  近年の各学問分野での研究の進展・深化は著しいものがあり,農学分野の関連学会との共同シンポジウムやミニシンポジウムへの参加などによる意見交換は益するところが大きいと考えます.これまで,日本育種学会,日本雑草学会,日本草地学会,日本農業気象学会,園芸学会,日本応用動物昆虫学会とはすでに合同シンポジウムの開催やシンポジウムの演者として招待講演頂いています.日本育種学会とは講演会の合同開催も行ってきました.皆様のご意見に基づいて,今後も可能な限り国内の関連学会(日本農作業学会,日本土壌肥料学会,日本農業教育学会等)との連携活動を企画していきます.また,支部会との連携強化はこれまでも取り組んできましたが,地域論文の推薦や本会講演会での発表は特定の会員に限られています.今期から講演会企画委員会を立ち上げますので,特に秋の講演会において開催支部の講演発表コーナーを設ける等,支部会員が本会活動に数多く参画する機会を作りたいと思います.

3.読みたくなる和文誌,アジアから世界に情報発信する英文誌へ
 学会誌は学会の顔とよく言われます.研究者は研究成果を国内外に発表していく義務があります.本会の学会誌の改革が始まったのは1998年に和英混載誌の日本作物学会紀事が,和文誌(日作紀)と英文誌(PPS)に分かれたことに始まります.当時の学会誌改革の方向付けについて,「和文誌は原著論文中心のものから総説や解説記事,種々の情報・書評などを中心に,生産現場での研究論文をできるだけ掲載する,英文誌は基礎,応用を問わず広く世界に発信できるような論文を掲載し,アジアを中心とした国際誌を目指す」と述べられています.英文誌については,歴代の編集委員会や会員,海外からの投稿者のサポートにより,2011年には大杉元会長が目標としたインパクトファクター1.0を達成し,昨年度は学術振興会の科研費で研究成果公開促進費の国際情報発信力強化の助成を受けるまでに成長してきています.しかし,掲載論文数は減少傾向にあり,これまで英文誌で論文作成のトレーニングを受けてきた多くの学生・研究者がより評価の高い国際誌,商業誌へと流れる傾向にあるのも,時代の流れと感じています.和文誌は,歴代編集委員会の努力にもかかわらず,掲載論文数は減り続け,昨年は39編と,1号10編を割るまでになってきています.総説や解説記事,種々の情報・書評などの記事がほとんど掲載されていないことや,若手の多くが英文誌へ投稿するようになり,地方の生産現場での研究論文が増加しなかったことが原因であると考えられます.今期の和文誌編集委員会には,読みたくなる和文誌への方策を議論していただきたいと考えます.

4.持続可能な学会運営
 持続的な学会運営(持続不可能であってはならない)を行うためには,盤石な財政基盤が必要です.ここ数年の決算をみると,2009年度からの5年間で400万円の赤字を計上しています.この間英文誌の研究成果公開促進費(2013年度は国際情報発信強化)は毎年採択されていますので,財政の健全化は急務の課題であります.2011年度に財政検討WG(丸山座長)が答申したように,会費の値上げは会員数減少に拍車をかけるので,これ以外で短期的に収入の増加を図る方策を検討し,即実施しなければならないと考えます.現在では投稿に伴う受益者負担(投稿料)の復活が候補に挙がっています.この点については,執行部の会計幹事を中心に財政再建推進本部を立ち上げて,実効ある収入増加方策,前期設立された出版部による収益事業の企画,そして効率的会務運営による経費削減を推進して行きます.

5.作物学のアイデンティティ
 本会会則第2条に「本会は作物に関する学術の発達を図り,同学の士の親睦を厚くすることを目的とする」と記載されています.すなわち,本会の責務は作物学をみんなで発展させることです.会員それぞれが確立した作物学のアイデンティティのもとに,本会に入会されているものと想像しますが,国際交流や関連学会との連携を行うには,学会として作物学のアイデンティティを明確にしておく必要があります.私が若手育成方策WGの座長をしていた当時,「作物学のアイデンティティを考える」という小集会を企画し,その後同様のシンポジウムも開催されました.現在の研究課題は,地球環境変動,良食味米や飼料米,WCS,バイオ燃料作物,直播栽培と有機栽培,ゲノム解析やプロテオーム解析,フェノーム解析,アジア・アフリカ地域のフィールド研究の拡大等,作物学を巡る環境は大きく変化していますが,対象・手法は変化しても作物種/品種・環境・栽培管理の相互関係を解明し,作物の持続的安定多収,品質向上,低コストを目指す技術開発や品種育成につなげることを通じて人類の生存と福祉に貢献する作物学の本質は変わりません.
 現在,日本学術会議の分科会で農学分野の参照基準が検討されています.ここでは,農学の定義,農学固有の特性,学生が身につける素養,学習方法及び学習成果の評価方法等が取り纏められつつあります.すでに,生物学分野では取り纏められ,公表されています.作物学教育については,1993年の秋のシンポジウム「大学における作物学教育」や2008年秋の学術会議シンポジウム「作物生産科学を中心とする農学教育の将来展望」で議論されていますが,学術会議の動きと連動して,作物学やその教育について再定義する時期に来ていると思います.また,その際には大学のみならず,初等・中等教育と作物学の関わりや,学会としての子供や一般市民,農業技術者を対象としたアウトリーチ活動の推進についても考えてみたいと思います.

6.グローバル人材育成
 今大学では,グローバル人材育成のための様々な取り組みがなされています.若い世代の「内向き志向」を克服し,国際的な産業競争力の向上や国と国の絆の強化の基盤として,グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる「人財」の育成を図ることが目的です.学協会においてもその流れは同様であると思います.大学は留学に対する支援策を十分に準備できていないのが現状です.日本作物学会でも十分な助成は準備されていませんが,若手研究者海外学会出席助成で1件10万円以下,年50万円を限度で補助されます.ホームページをご覧下さい.今年は9月に第8回アジア作物学会(ハノイ),10月に第4回国際イネ会議(バンコク)が開催されますし,IRRI YOUNG SCIENTISTS CONFERENCEやJIRCASの国際共同研究人材育成推進・支援事業とかが海外に出るチャンスです.世界の農業研究機関には数多くの先輩たちが活躍しています.機会があったら,訪ねてみて下さい.
 前期より,韓国作物学会と講演会の相互交流の下地が築かれ,春の講演会では正式な学術交流協定が結ばれましたので,講演会への相互参加を進めて行きたいと思います.そのためには,科研費-研究成果公開促進費「国際情報発信強化」に採択されて,交流に関わる予算を確保しなければなりません.中国とは昨年学術交流協定が更新されましたし,2016年には第7回世界作物学会議が中国をホスト国として開催されますので,これに向けて交流事業を推進させたいと思います.

7.若手・女性研究者人材育成
 昨年導入されたオンライン会員情報システムにより,若手や女性の学生・研究者の本会における実態を把握しておく必要があります.しかし,その登録者数が会員数の3割に足りません.今後は選挙のみならず,アンケート機能を使って様々な意見の募集を行いたいと思っていますので,未登録の会員におかれましては,是非登録をお願い致します.
 若手研究者支援,男女共同参画に向けた取り組みは歴代会長のもとで,海外学会出席助成や講演会の優秀発表賞の創設,託児所利用補助などが推進され,昨年は女性研究者が研究奨励賞を受賞するまでに定着してきました.若手の会を中心として,ミニシンポや小集会が企画され,そこには多くの女子学生や女性研究者が参加されています.また,学会の会員で2名のママさんがJSPSの特別研究員?RPD(出産・育児による研究中断後の円滑な研究現場復帰を支援)に採用されています.今期は,日本学術振興会特別研究員や科研費への応募促進や大学院生,女性研究者のキャリア支援に若手・男女共同参画ワーキンググループを中心に取り組んで頂きたいと思います.これら活動を通じて,若手・女性研究者が活躍しやすい環境づくりを推進して参ります.

 若手も女性もそしてシニアの研究者も,真摯な態度で作物学を考え,研究に取り組むことにより,講演会,学会誌,研究交流等のにぎわいが生まれ,学会機能が強化され,学会が活性化します.以上紹介した課題,取り組みについては,執行部,各種委員会,そして何より会員皆様のご意見を伺いながらPDCAサイクルを効果的に回して改善を進めていく所存です.皆様のご協力・ご支援を重ねてお願いいたします.