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日本作物学会の会員の皆様へ

会長 齊藤 邦行
(岡山大学大学院環境生命科学研究科)

 2016年の年頭にあたり,会員の皆様に,新年のご挨拶を申し上げます.会長に就任して1年9カ月が過ぎました.任期も残すところ3カ月となり,昨年の本会活動の概要を述べさせて頂きたいと思います.
 昨年3月の評議員会,総会におきまして,会員数の動向は一昨年増加に転じ,2014年度末も前年度に比べ40名の増加となりました.しかし,2014年度の決算はPPSの科研費が不採択に終わったことも影響して,単年度405万円の赤字となりました.2015年度の予算は,PPSの科研費が採択されると仮定しても274万円の赤字予算をお認め頂きました.その際に,今後の財政健全化に向けた対策として,PPSを2016年1月から海外の出版社に完全オンラインジャーナル化を委託して,冊子体を廃止する方針を承認頂きました.これに伴い200万円程度の出版費削減が見込まれます.日本大学の講演会には韓国から2名の参加と講演発表がありました.
 昨年4月下旬に2015年度の研究成果公開促進費(科研費)の採択結果の報告が有り,研究成果公開発表(B),いわゆる9月の信州大学での一般市民対象のシンポジウム開催経費は不採択となりました.諸経費はシンポジウム委員会からの支出となります.また,PPSの国際学術情報発信強化(科研費)は採択(350万円)となりました.これで,中国・韓国との学術交流や若手の海外派遣の予算が確保できたことになります.また,昨年中止した支部補助も再開致しました.
 5月にはPPSをオンラインジャーナルとして出版する業者の入札を公告し,その結果Tailor and Francisがオンライン出版経費450万円+冊子体200部買取の最低金額45万円,合計495万円で落札しました.これ以降,Instruction for Contributorsの改正,HPの体裁検討,会員へのオンラインジャーナル化とPPS会員としてのメリットの周知,そして本年1月に19巻1号からHPへの掲載・公開という運びになりました.
 5月下旬に韓国作物学会春季学術発表会が全羅北道全州市で開催され,日本からは私と坂上氏(鹿児島大学)が招待され,基調講演を行いました.韓国の農村振興庁食糧科学院が全州市に移転し,その開所式に学術発表会を並行開催されたものです.アフリカイネセンターの Harold Roy-Macauley所長も基調講演され,食糧科学院とアフリカイネセンターとの研究協力協定の調印式も行われました.学術発表会の口頭発表は基調講演も含めて19課題と少なく,ポスター発表が236課題と著しく多く,参加者は200名ほどと推測されました.
 8月20日,21日に中国ハルピンの東北農業大学で開催された中国作物学会年会に私が招待され,基調講演を行いました.基調講演にはオーストラリアCSIROのTony Fisher氏,韓国ソウル大学のHee-Jong Koh氏も招待されていました.20日は全体会議で基調講演も含めて17課題の講演が行われ,21日には生物技術(工学),遺伝育種・遺伝資源,作物栽培・耕作の3部門に分かれ,約20課題の講演発表が行われました.20日夕刻の2時間30分をかけて,研究生(若手研究者)の研究発表が14課題発表され,この内7名が閉会式で表彰されていました.参加者は2,000名で,4つの会場はビデオ中継で結ばれていました.ポスター発表は行われておらず,学生は開催大学の学生が主で,その分野の先端的研究を聞いて勉強をしているという雰囲気でした.学術年会では,論文摘要集が発刊され,生物技術64課題,遺伝育種・遺伝資源70課題,栽培生理・耕作93課題の要旨が各A4版1枚で掲載されおり,その内39課題が英文で作成されていました.中国の作物学会は,13の省レベルの支部会と作物別の19の専門委員会で構成され,それぞれが年会や研究会を持ち,報告集を本会で取り纏めています.
 9月5, 6日に信州大学長野キャンパスで開催された第240回講演会では,139課題の講演発表が行われ,国際交流セミナー(日・中・韓),シンポジウム1「これからの農学教育を考える」,シンポジウム2「米になるイネ,ならないイネ―雑草イネの来た道と今後,研究先進地長野県からの最新情報―」も同時開催されました.国際交流セミナーでは,中国作物学会副理事長の万建民氏が不参加となりましたが,韓国作物学会誌編集委員長のSun-hee Woo氏と丸山副会長の講演が行われました.シンポジウム1では,根本氏をオーガナイザーとして,農学教育にテーヤに始まる「農業重学」的総合性が必要であることを指摘し,要素還元して発展してきた生物学等による教育ではなく,地理学や環境学の視点からの農学教育の重要性を指摘した点は新鮮に感じられました.シンポジウム2では,講演会運営委員長の萩原氏をオーガナイザーとして,雑草学会と共催で開催され,作物・雑草研究者のみならず100名を超える農業者,JA関係者の参加が有り,雑草イネ問題の深刻さが再認識されました.私も含め,稲作を作物学,雑草学のみから捉えるのではなく,行政,普及,研究機関,JA,農業共済,植調などが連携した,総合的な防除対策が必要なことを痛感した次第です.エクスカーションでは,戸隠地域のソバ栽培圃場,ソバ博物館,ソバ工場とソバ尽くしで,信州のソバ文化を堪能できました.本講演会には,韓国からKim会長,国際交流セミナー講演者Woo氏,中国から万建民氏(所用により不参加)を招待し,さらに韓国からは11名の参加があり,口頭発表5課題,ポスター発表9課題の発表がありました.韓国との国際交流がより緊密に推進されました.本年8月に北京で開催される国際作物科学会議で,中国・韓国との相互交流をさらに推進したいと思います.なお,本講演会の優秀発表賞10名がホームページに公開されているますが,選考の過程でWoon-Ha Hwang氏の発表が優秀であったとの評価があり,会員ではないことから,会長名で特別優秀発表賞を授与しました.A4版1ページの講演要旨集や学生発表者の学年,PD,就活中か否かの表記も,違和感なく定着してきたように思われます.
 9月23日~24日に,韓国作物学会との学術交流を進める目的で,韓国中部に位置する忠清北道槐山郡の中源大学(Jungwon University)で開催された韓国作物学会秋季学術発表会に私が招待され,日本作物学会の若手研究者5名が派遣助成により出席,発表しました.学術発表会は,「持続可能な食料生産に向けた作物研究」のテーマで行われ,一般講演に加え,プロテオームに関する国際シンポジウムも同時開催されました.AOAPO(アジア・オセアニア農業プロテオミックス協会)からは,数名の日本人の参加があり,滞在中は学内のゲストハウスに宿泊させていただきました.中源大学近隣で槐山(ケソン)世界有機産業EXPO(国際有機農業研究学会主催)が9月18日~10月11日まで開催されており,本講演会はその共催イベントとして位置付けられていました.槐山郡は有機農業の先進地域として位置付けられています.講演会中に有機産業EXPOの見学が組み込まれており,韓国における有機農業への関心の高まりを,熱く感じました.閉会式では日本からの発表者3名に,優秀発表賞の表彰がありました.最後にソウル市内の観光も楽しめました.
 本年度,不採択に終わった科研費,研究成果公開発表(B)シンポジウム助成については,高橋シンポジウム委員長を中心に第242回講演会開催校(龍谷大学)の大門氏とで綿密に調整いただき,例年はシンポジウム2(講演会事務局企画)で申請を行ってきましたが,今回はシンポジウム1(シンポジウム委員会企画)で『あんなかたち,こんなかたち,地域それぞれ人それぞれの6次産業』というテーマで申請いただきました.これまでにない企画ですので,必ず採択されるものと信じております.また,国際情報発信強化(B)PPS助成については,大杉PPS編集委員長と綿密に打合せつつ,『アジア地域における作物研究のトップジャーナルPlant Production Scienceを目指して-Online Journalとしての5カ年発展計画-』という取組名で,2016年度362万円,5年間計1608万円の申請をしていただきました.本年,4月には必ず採択されると信じて,会務の運営に尽力したいと思います.
 本年1月下旬には19巻1号が完全オンラインジャーナルとして掲載されます.作物学会公式HP→英文誌→PPSオンラインジャーナルをご覧下さい.特集として高温障害を取り上げ,ミニレビュー3報と関連論文1報が掲載されます.会員の皆さまには,これまで以上に積極的に投稿され,PPSの一層の国際化と日本作物学会の発展に貢献していただくようお願いいたします.
 本年3月の第241回講演会には,韓国の新作物学会長をはじめ,多くの若手研究者が参加を予定しています.4月の韓国作物学会春季学術発表会には,本会より2名の会員が招待講演を依頼されています.また,10月の秋季学術発表会に参加,講演発表を行う若手研究者への渡航費助成も行う予定です.本年8月14日~19日には第7回国際作物科学会議(北京)が開催される予定で,坂上海外交流推進委員長を中心に,日中韓の合同セッションを企画いただいています.若手研究者海外学会出席助成(前期分)の申し込み(1月5日締切)も募集が行われました.若手研究者の皆さんには積極的な国際交流の推進をお願い致します.また,来年(2017年)4月の第9回アジア作物学会議(済州島)に向けて,日中韓3ヵ国の協力態勢を確立し,次期へ引き継ぎたいと思います.
 2年前に会長に就任致しましたときに,①魅力ある講演会,②和文誌・英文誌の改革,③持続可能な学会運営,④作物学のアイデンティティー確立,⑤グローバル人材育成,⑥若手・女性研究者人材育成を目標として掲げました.2年間は必ずしも長い時間ではありませんでしたし,私の努力不足からすべてを実現することはできませんでしたが,皆様のご協力を得て,いくつか実現できたこともあります.次期執行部の体制も整いつつあります.実現できたことは,更に発展させていただくよう,実現できなかったことは,継続して検討いただくよう,次期執行部へ引き継ぎたいと思います.
 最後のご挨拶になりますが,本会が,会員皆様の作物学研究の発展と,交流を進める場として,ますます機能するようにお祈りしますとともに,2年間,学会活動にご協力頂きました会員の皆様と役員の方々に,心よりお礼申し上げます.