日本作物学会の会員の皆様へ
会長 丸山幸夫
(筑波大学生命環境系)
2018年の年頭にあたり,会員の皆様に新年のご挨拶を申し上げます.私が会長に就任してから1年9カ月が経過し,任期も残すところ3カ月となりました.昨年7月に昨年前半の本会活動について報告しましたが,今回は昨年後半の活動の概要をお知らせするとともに,今期の活動を振り返り,次期に引き継ぐ準備をしたいと思います.
第2回評議員会は9月13日(水)に岐阜大学で開催され,シンポジウムの規則の改正,第10回アジア作物学会議の準備,将来構想検討ワーキンググループの中間報告案について審議が行われ,日作紀速報の経過,科学研究費の国際情報発信強化(PPS助成),第9回アジア作物学会議等について報告がありました.評議員会の前に開催された学会賞選考委員会では,大門弘幸委員長の下で審議が行われ,学会賞1件,研究奨励賞1件,和文誌・英文誌論文賞各3件が学会長に報告された後に決定されました.学会賞等に関する情報は学会ホームページに公表されています.
第244回講演会は9月14日(木)~15日(金)に岐阜大学で開催され,一般講演66課題,ポスター58課題が発表されました.今回は様々な事情から,従来実施していたシンポジウム1と2を一本化して行うことになりましたが,講演会運営委員会を中心に企画した「10年後への中山間地域の農業像」は科学研究費の研究成果公開発表(B)に採択され,岐阜県の行政・研究機関と農業団体,および,他地域の大学から7名の話題提供者を招いて実施されました.話題提供を受けたパネルディスカッションによる総合討論では,会場から時間内に対応できないほど多くの質問や意見が出され,非常に活発な議論が行われました.なお,シンポジウムに参加した農業者や一般市民を対象に「おいしいお米の作り方」の地域交流活動を合わせて行い,学会員2名と米流通関係者の講演が行われました.
平成30年度の科学研究費研究成果公開発表(B)については,シンポジウム委員会と第246回講演会開催予定の北海道大学の柏木純一氏との間で調整し,「すべては食べてくれる人のために~北海道の『農』と『食』とは~」という課題で申請しました.なお,国際情報発信強化(B)PPS助成については,本年度に採択された「オープンアクセス化を果たしたPlant Production Science誌の更なる国際情報発信展開」が5年間交付される予定で,この間の申請は必要ないと判断しています.本年4月に研究成果公開発表(B)が採択されることを期待したいと思います.
ここで,学会長就任時に掲げた5項目の重点施策を中心に,これまでの学会活動を振り返ってみたいと思います.第一の重点事項の学会財政については,2016年度は赤字予算で始まり,科学研究費の国際情報発信強化(B)の不採択により赤字予算額はさらに増えましたが,事務局および各種委員会の経費節約や支部会補助金の減額などの緊縮財政と,講演会運営委員会からの寄附により,僅かながら黒字で決算することができました.2017年度は,科学研究費の研究成果公開発表(B)と国際情報発信強化(B)がいずれも採択となり,これらを見込んだ当初予算が計画通り執行できる目途がつきました.とくに,国際情報発信強化(B)のPPS助成は5年間交付の予定であり,今後の学会財政の改善に明るい見通しが立ちました.しかし,学会員数が再び減少傾向にあり,長期的にみた学会財政は予断を許さない状況にあります.
第二の重点項目の学会誌の充実については,和文誌に速報という新たな投稿区分が新設されました.講演会発表と同時に投稿し迅速な審査を経て論文掲載できる仕組みであり,とくに若手研究者の活用による投稿数の増加を期待しています.一方,2016年1月からTalor & Francis社への委託により英文誌の完全オンライン化が実現しました.英文誌冊子体の廃止に伴い多少の混乱はありましたが,新しい論文の審査・編集システムは順調に稼働し論文が順次オンライン上に掲載されています.2017年度には科学研究費の国際情報発信強化(B)PPS助成が採択され,英文誌の論文審査体制の強化と掲載論文の質の向上が図られつつあります.
第三の重点項目の学会講演会の運営については,将来構想検討ワーキンググループで検討中であり,今後の答申に検討結果が盛り込まれる予定です.講演会では一般講演,ポスター発表,シンポジウム,ミニシンポジウム,小集会,日中韓の国際セミナーなど,多様な内容で開催されるようになりました.また,優秀発表賞の審査,広報委員会のアウトリーチ活動,託児所開設など講演会を支援・活性化する活動も増加しています.それに加え,最近では春の講演会への参加者数が増加,秋の講演会への参加者が減少しており,春の講演会開催機関の負担が増加すると同時に,秋の講演会に2つのシンポジウムを開催することが実情に合わなくなっています.以上の問題点を抜本的に解決する講演会の開催方法と運営の仕組みを工夫する必要があります.
第四の重点項目の国内外の関連学会との連携強化については,引き続き中国および韓国作物学会との学会間交流を継続しました.2016年8月に中国・北京で開催された第7回国際作物学会議に十数名の学会員の参加があり,海外交流推進委員会を中心に中国,韓国の作物学会との共催のセッションを実施し,座長と講演者2名を学会員が務めました.また,2017年6月に韓国・済州で開催された第9回アジア作物学会議には60名を超える学会員の参加があり,招待講演者1名を学会員が務めるとともに,若手・男女共同参画ワーキンググループを中心に韓国作物学会などと共同でYoung Scientist Forum in Asiaを実施しました.なお,次回の第10回アジア作物学会議は2020年8~9月に名古屋で開催することが決まり,名古屋大学の山内章氏を中心に準備が進められています.
第五の重点項目の若手・女性研究者の育成については,若手研究者の海外学会等への出席助成に力を入れ,海外交流推進委員会の協力を得て2016年度に6名,2017年度に4名,合計10名の若手研究者を派遣しました.若手研究者海外学会出席助成制度の原資である海外交流基金が残り少なくなっていることから,新たな助成制度とその原資について検討を行い,同様な制度を継続する予定です.また,第9回アジア作物学会議における若手研究者のワークショップ開催のため,前年の2016年の秋の韓国作物学会講演会に若手・男女共同参画ワーキンググループのメンバーが参加して企画の検討を行い,Young Scientist Forum in Asiaの成功につなげることができ,韓国等アジア地域の若手研究者間の交流が深まりました. 今後,将来構想検討ワーキンググループから学会財政の健全化,講演会の開催方法と効率的運営,国内外の関連学会との連携などについて答申が出る予定です.答申の内容を検討のうえ,できるものから実行に向けた準備を進めます.また,2020年8~9月に名古屋で開催予定の第10回アジア作物学会議は学会の総力を結集して取り組む活動になります.学会員の皆様にはそれぞれの立場から学会活動に積極的にご参加くださるよう引き続き宜しくお願い申し上げます.